「フィジカルAI」という言葉を聞いて、どんなものを想像するでしょうか
ヒト型ロボット?
それとも、最新の工場に並ぶ巨大なアーム?
たぶん、そういうイメージを持つ人が多いと思います
でも、僕が「これこそがフィジカルAIの正解だ」と思っている事例は、まったく違います
静岡の、きゅうり農家です
今回はこの事例を通して、フィジカルAIが本当に目指すべき形について書いていきます
結論:フィジカルAIの正解は「お母さんの1日8時間」から始まった

先に結論から書きます
この事例のすごいところは、技術ではありません
出発点が「目の前の1人の負担」だったことです
元組み込み系エンジニアで、現在はきゅうり農家を営む小池誠さんという方がいます
小池さんの実家では、きゅうりの仕分け作業をお母さんが担当していました
そして収穫のピーク時には、1日8時間ずっとその作業に追われていたそうです
そこで小池さんはこう考えます
「少しでもこの負担を軽減してあげたい」
その結果、生まれたのがきゅうり自動仕分けマシーンです
「AIを導入しよう」から始まっていない
ここがめちゃくちゃ重要なポイントだと思っています
まずは実際の映像を見てもらうのが早いですね
そもそも何が起きたのか?農家が自分でAIを作った話

まず、きゅうりの仕分けがどれだけ大変か
チェックするポイントが、とにかく多いんです
- 形
- 大きさ
- 表面の艶
- 曲がり具合
- 太さの均一さ
これを、目と手で1本ずつ判断していきます
いわゆる「熟練の技」というやつですね
この作業を、小池さんはこういう仕組みで自動化しました
- きゅうりを台に置く
- Webカメラが撮影して、画像データをシステムに送る
- あらかじめ何千枚もの画像を等級とセットで学習させたAIが判定する
- ベルトコンベアで運ばれる
- 等級ごとの箱の前でアームが飛び出して、箱に入れる
判定して、運んで、箱に入れるところまで
全部つながっています
ポイント1:これは「画面の中で終わるAI」ではない
ここがフィジカルAIの核心だと思っています
世の中の多くのAI導入は、画面の中で終わります
- データを分析してグラフを出す
- 文章を要約する
- 「この等級です」と表示する
もちろん、これはこれで価値があります
でも、現場の負担はそこまで変わらないんですよね
だって、結局そのあと人間が手を動かすからです
きゅうり自動仕分けマシーンがすごいのは、ここです
判断だけでなく、箱に入れるところまでやりきっている
AIが「考える」だけで終わらず、機械が「動く」ところまで到達している
これがフィジカルAIです
ポイント2:1号機はWebカメラ1台。精度70〜80%でもスタートした

ここも、めちゃくちゃ参考になる部分です
いきなり完璧なマシーンができたわけではありません
1号機は、こういう仕組みでした
- スタンドにWebカメラを1台取り付ける
- 下に置いたきゅうりを撮影する
- 等級を判別する
それだけです
しかも、きゅうりの上面しか撮影できません
側面も裏面もチェックできない
それでも、最初の段階で70〜80%くらいの精度は出ていたそうです
そして2号機で、カメラを3台に増やしました
上面・側面・裏面から撮影できるようにして、箱詰めまで自動化した
つまり、こういう順番です
- ❌ 完璧な計画を立ててから作る
- ⭕ とりあえず作って、足りないところを足していく
中小企業がAI導入で失敗するパターンって、たいてい前者なんですよね
ポイント3:課題は山積み。でも、それでいい
正直に言うと、この仕組みはまだ完成していません
小池さん自身が、こういう課題を挙げています
- きゅうりを手作業で台に置いているので、そこも自動化したい
- 認識率もまだまだ改善できる
- アームで押し出すとき、きゅうりに傷がつきやすい
課題だらけです
でも、それでいいと思っています
なぜなら、お母さんの作業時間は確実に減っているからです
「100点じゃないから導入しない」
これが一番もったいない
60点でも、現場の負担が減るなら価値があります
ポイント4:AIが引き継いだのは「作業」ではなく「熟練の目」
ここが、地味だけどすごく大きい話です
きゅうりの等級判定は、経験がものを言う仕事です
新人がすぐにできるようになるものではありません
つまり、こういうリスクを常に抱えています
- その人が辞めたら、判断基準が失われる
- その人が休んだら、作業が止まる
- 新しく人を雇っても、すぐには戦力にならない
中小企業でよくある「あの人しかできない仕事」ってやつですね
でも、その判断基準を画像データとして学習させてしまえば、仕組みとして残ります
フィジカルAIは、単に手を動かす代わりではありません
属人化した熟練のノウハウを、会社の資産に変える手段でもあります
ファミレスの猫型ロボットと、実は同じ話です
ここまで読んで、こう思った人もいるかもしれません
「うちは農家じゃないんだけど」
大丈夫です。本質はまったく同じです
ファミレスの猫型ロボットも、きゅうり自動仕分けマシーンも、やっていることは1つです
現場で人間が毎日繰り返している作業を、機械に任せる
違いは、扱っているものが料理かきゅうりかだけですね
そして、どちらもこの条件を満たしています
- 毎日繰り返している
- 誰がやっても結果が変わらない(あるいは変わってほしくない)
- 時間がかかっている
- 人手不足になっている
じゃあ、自社では何から始めればいいのか
小池さんの事例から学べることを、3つにまとめます
1. 技術からではなく「一番つらそうな人」から考える
「AIで何かできないか」から入ると、だいたい迷子になります
そうではなく、こう考えてみてください
「うちで一番、単純作業に時間を取られている人は誰か?」
そこが出発点です
2. 判断だけでなく「その後の作業」まで見る
AIが答えを出しても、人間が手を動かすなら負担はあまり減りません
「判定 → 移動 → 仕分け」
この流れをどこまでつなげられるかを考えてみてください
3. 小さく作って、動かしながら直す
1号機はWebカメラ1台です
最初から完璧を目指す必要はまったくありません
むしろ、動かしてみないと本当の課題は見えてこないんですよね
まとめ:フィジカルAIの正解は、現場から生まれる
きゅうり自動仕分けマシーンが素晴らしいのは、最先端だからではありません
こういう順番で生まれているからです
- 目の前に、1日8時間仕分けをしている人がいた
- その負担を減らしたいと思った
- 手元にある技術で、小さく作ってみた
- 動かしながら改良を続けている
「AIを導入すること」が目的になっていない
ここが本当に大事なところだと思います
フィジカルAIの目的は、あくまでこれです
- 現場の人の負担を減らすこと
- 人手不足を解消すること
- 会社に利益を残すこと
もし自社にフィジカルAIを入れたいと思ったら、カタログを見る前に現場を見てください
「この作業、毎日人間がやる必要があるのか?」
その問いから始まったものだけが、たぶんちゃんと使われます
※この記事は、i:Engineerの取材記事「人工知能が、きゅうりの仕分けをします。農家の小池誠さん、自動仕分けマシーンを作る」を参考にしています
コメント